栃木県眼科医会会長ごあいさつ

~  今、何ができるのか。再び真摯に考えたい  ~

栃木県眼科医会会長 吉澤 徹

今回、新たに栃木県アイバンクの理事を拝命することになりました。

私が栃木県に戻って開業医としての仕事を始めてから、早いもので約三十年になりますが、それ以前は東京の大学病院に所属し、角膜移植手術に携わる毎日を送っておりました。

その当事は、今ほどドナー角膜の保存法が進歩していませんでしたので、医局に知らせがあった場合には角膜移植斑の誰かが直ちに現地に向かう必要があり、自分のいる病院ならまだいいのですが、遠方からの連絡の場合、事業団から支給されるタクシー代を頼りに、時には2時間以上をかけて眼球摘出に向かったものです。ある時は連絡違いのためにご遺体がお寺に搬送されたあとに到着したため、ご遺族が集まった隣の部屋で、座敷に正座をして摘出を行ったこともありました。

それと同時に移植台帳に登録した患者様の中から、申し込み順と各種の条件に適合した方を選び出し電話連絡をします。   患者様が病院に緊急入院するのは夜になることが多く、時間的制約から夜を徹して手術を行うことも珍しいことではありませんでした。
今思うと移植班の活動自体が全員の無償奉仕でぎりぎり成立していたようなものでしたが、それでも献眼を決断されたご家族やご遺族の方達のおこころざしを思い、また、手術を受ける方が背負った悩み、苦しみなどに触れることで、なんとか続けることができたのでは、と思っています。

あの頃から多くの時間が過ぎ、私自身が再び手術の現場に立つことはありません。しかし、昭和51年に設立されて以来、多くの方々の善意とこころざしによって支えられてきた県アイバンクの理事の一員として、県民の皆様に対しては、よりいっそうの理解と協力へのお願いをすること、また臨床の現場においては、移植コーディネーターや各医療機関のスタッフの方々との良き仲介役を果たせるよう、努力してゆきたいと思います。

もちろん、栃木県眼科医会としても、献眼登録への協力や募金活動など、さらに協力をすすめてゆくことをお約束します。

(公財)栃木県アイバンク「光とアイ」15号より